全国高専Moodle草の根ネットワーク(人的)構築の檄文

 moodle.orgのJapanese Moodleコースのfacilitatorの一人で,日本ムードル協会Moodle Association of Japan,2011年2月設立)の日本語広報担当理事を務める鈴鹿工業高等専門学校 機械工学科 准教授の白井達也です.
 ICT(Information and Communication Technology)を駆使することが要求される社会にあって実践的エンジニアを養成する高等教育機関である高専でもICTを使いこなすことができる学生を養成する必要があります.一方,教育環境へのICT普及は一部の学校を除き,遅々として進んでいません.また,システムは導入されていてもそれを積極的に使おうとする教職員は一部に過ぎません.
 いまeラーニングシステム,いえ,敢えて欧米風に仮想教育環境(VLE: Virtual Learning Environment)の世界においてMoodle(ムードル)が中心的な存在になりつつあります.Moodleオープンソースであり,社会構成主義に基づいて根本から設計されたシステムです.日々,全世界のプログラマが改良を行い,進化を続けています.

 いま商用のeラーニングシステム(Blackboard, WebCT, WebClassなど)を利用している高専も少なくありませんが,減り続ける運営交付金の影響から高い維持費用の負担を低減するためにMoodleに移行を始めている高専もあります.Moodleの優れている点は単に無料である,ということではありません.全てのソースがGPLに基づいて公開されていることから,不具合の改善や機能の追加や改造を自由に行える点が本来のオープンソースの美点であり,商用システムあるいは企業が開発してオープン化したVLE(LMS,CMS)との違いです.

 今後,Moodle高専におけるVLEの中心的存在になるでしょうし,するべきです.中途半端に成功したCAIの影響から,eラーニングが導入されると教師の仕事が増えると恐れられています.確かに仕事は増える面もあります.しかし教育の質は確実に上がります.なお,ここで私が力説したい点は,VLEは自学自習のための教材提供用の,あるいはビデオ・オン・デマンドの,あるいはクイズ形式の問題集を機械的に解くことで学習を進めるためのシステムではないという点です.教師と学生,学生と学生がお互いに意見交換,情報交換を行う場です.確かに学習教材を使った自学自習の機能も備えていますが,それ+αの知的コミュニケーションの場としての機能の拡充が近年のVLEの特徴です.
 そういう見方をしますと,Moodleは学校ポータルサイトとして,あるいはユーザ認証による実名主義の閉じたソーシャルネットワークとしての使い方が見えてくるでしょう.ここが第1ステップです.(各高専Moodleがまだ自学自習用システムあるいは電子ファイルで課題を提出するためのシステムとしてのみ用いられているならばステップゼロです)

 いま(2011.9.22)各高専の中でMoodleの利用を推進している教職員の方々の草の根ネットワークの構築を呼び掛けるのは,まずステップゼロを実現する必要のある高専には情報提供を,ステップ1に向けて頑張っている高専とは情報交換を,そして次のステップ2へ向けて意見交換を行いたいと考えるに至ったためです.
 豊田高専の仲野先生が高専Moodleプロジェクトを立ち上げています.仲野先生には了解を得まして,この高専Moodleプロジェクトのサイトを用いて,組織のしがらみ無しに有志の教職員で全国の高専Moodleの輪を広げるための環境を用意して頂きました.

 ステップ2は,各高専MoodleサイトをMoodleネットワーク機能(あるいはシボレス認証)によるシングルサインオン(SSO)で相互接続することを狙っています.これには各校の情報セキュリティポリシーの違いなど解決しなくてはならない問題が多々あります.

 なぜMoodleサイト同士を接続するのか.それは我々高専教員の大半が知らないところで,既に一部の先鋭化した学生同士が高専の枠を超えて交流を始めているためです.そしてそれは非常に大きな飛躍の可能性秘めているためです.繰り返します.我々は学生のムーブメントに取り残されつつあります.以前はmixi, いまはTwitter, facebook, Skype, Ustreamで学生たちはソーシャルネットを広げ,”高専ブランド”に基づいて協働しています.この動きを阻止するつもりはありません.いままで以上に広がることを望みます.ただ,これらは先鋭化された一部の学生たちのためのものです.一般の高専生は多くの教員同様に,高専カンファレンスの存在も知らずに自高専の枠の中に閉じ込められています.
 全高専の在学生数を足し合わせても1万5千人程度です(早稲田大学の新入生数は4万人超).高専は高等教育機関として,一校一校は大して大きな組織ではありません.しかし,日本全国にキャンパスが点在している一つの工業系高等教育機関として捉えた場合に,教職員数・学生数共に単一の国立大学を軽く凌駕します.単に大きいだけではなく,日本全国に点在することから,その土地の文化や歴史,高専の文化や歴史は異なります.その多様性も一つの「高専」というブランドで繋ぐと,非常にユニークな小社会が実現できるでしょう.
 今後10年,高専が他の教育機関に負けないブランドを維持するのに「標準化」の流れもあり,これは最低限の品質を保証する上では重要なことですが,地理的な問題もあるので「単一化」はしないでしょう.それで良い.その違いを活かしながらMoodleを基盤としたネットワークで多様性のある人的交流を行えるようになれば,高専間の枠を超えたプロジェクトが学生間,教員間で立ち上がるでしょう.

 ステップ2の話は実現が困難です.トップダウンで進める話ではなく,草の根的に準備のできた高専同士が少しずつ連携すれば良いと思います.いえ,こういった話の良い点,悪い点を話し合いながら,Moodleを使って高専の教育環境をどのように改善していけるのかを学生たちの為に考えて行きたいと思います.

 興味を持った高専教職員の方,鈴鹿高専の白井( shirai@mech.suzuka-ct.ac.jp )までメールを送って下さい.随時受け受けます.高専機構に働きかけようとか,団体を結成しようとか,助成金を申請しようとか考えている訳ではありません.集まった先生方の中からそのような活動を始める方々が現れるかも知れませんが,私は一人一人の先生方の仕事を増やしたくはありません.
 情報共有を行うことで,たとえばMoodleの使い方に関するドキュメントを共有したり,近隣の高専であれば講師を派遣したり,Moodle高専の教務体系に適合させるための工夫について情報交換できたりするでしょう.

#以上,推敲無しですので読みにくい点もあるかと思いますがご容赦下さい.

2011年8月の日本高専学会で発表した資料を以下に.
http://www.slideshare.net/tatsuva/00067-moodle-8989998
http://www.slideshare.net/tatsuva/00067-moodle-8989971

2011.9.26 一部修正および加筆を行いました.